最高裁判所第一小法廷 昭和44年(オ)500号 判決 1969年9月11日
上告人
長山昌弘
上告人
長山とし
代理人
渡辺一男
上告人ら補助参加人
阿部タケ
被上告人
菊地鎮
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人らの負担とする。
理由
上告代理人渡辺一男の上告理由第一点について。
控訴審判決の主文において物件を表示するにつき、第一審判決に掲げる物件の表示を引用することの差し支えないことは、当裁判所の判例とするところであつて(最高裁判所昭和三十七年(オ)第二五四号、同三九年五月二六日第三小法廷判決、民集一八巻四号六五四頁参照)、原判決に所論の違法はない。論旨は採用することができない。
同第二点について。
本件賃借権の対象となる土地について、原判決が一審判決を引用することによりこれを特定していることは、その判示に徴して明らかである。また、原審において被上告人の主張するところによれば、被上告人の本訴請求は、上告人らの争つている本件土地に対する賃借権そのものが現に存在することの確認を求めるということに尽きることが明らかであるから、その賃料額、存続期間または契約の成立年月日を主文に掲載する必要のないことは当然である。そして、原判示によれば、被上告人と上告人らの先代善次郎との間には、昭和二〇年一〇月ごろ本件従前土地の一部(間口五間半、面積約一九九坪の部分)につき、期間の定めのない賃貸借契約が成立し、その後間もなく賃借土地の範囲を約二六〇坪に増加することを合意し、ついで、本件従前の土地につき善次郎に対し換地予定地の指定がされたことに伴い、被上告人と善次郎との間に、昭和二五年七月から九月までの間に、右賃貸借契約において被上告人に使用収益させる土地の地域を原判決別紙目録(その引用する第一審判決別紙図面を含む。)記載のとおりの地域とする旨の合意が成立し、現在に至つているというのであるから、これによつて、本件賃貸借契約の特定性になんら欠けるところはない。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(大隅健一郎 入江俊郎 長部謹吾 松田二郎 岩田誠)
上告代理人の上告理由
第一点(略)
第二点 原判決はその主文に確認の対象である賃借権の特定をしなかつた違法がある。すなわち、
(一) およそ土地賃借権確認請求訴訟において確認の対象である賃借権の目的土地が一筆の一部である場合には、裁判官は確認請求を認容するについては土地の範囲を可能なかぎり具体的に表示し、判決書自体によつてその範囲で一見あきらかであるようにしなければならないことはいうまでもない。ところで、原判決がかりに前項の理由によつては破毀せられないものとしても、すくなくとも主文の内容の一部である図面について第一審判決を引用した原判決は上記民事訴訟法の規定に違反することはあきらかであるので、結局、原判決は別紙目録記載の一筆の一部である土地一五〇坪八合の部分の具体的な範囲を示す図面を附さなかつたことに帰するわけである。これをいいかえれば、原判決は確認の対象である賃借権の目的土地の範囲についてなんらの特定をもしていないことになるのであるから、原判決には確認の目的物の範囲の一定を欠く違法があるものというべきである。なお、かりに第一審判決の図面を第二審判決に引用することがゆるされるものとしても、原判決に引用された第一審判決附属の図面では上述の28、34、リ、ル、35、31の各点の位置がなんら具体的に示されるところがない(同図面にはただ右各点が漫然と番号または符号を以て示されているだけであつて、例えば、右各点は同号の杭の中心点の位置を示すなどというような右各点の現実の場所における具体的な位置の表示は全くなされていない。)から、原判決の確認の対象である賃借権の目的土地の範囲は原判決自体によつてはすこしもあきらかでない。これを要するに、右の前提の下においても、原判決にはやはり確認の目的物の範囲の一定を欠く違法があるものといわなければならない。
(二) 現行法上では賃借権は債権として構成せられ、排他性を有しないものとされているから、同一物件について同一人を賃借人とする賃借権が二回以上成立することは理論上は可能である。従つて一つの賃借権を他の賃借権と区別しうる程度に特定するためにはその基本である賃貸借契約成立の日時、賃料額、期間などその条件を可能なかぎり詳細に表示することがのぞましい。かりにそれらの全部を表示することが不可能であるとしても、すくなくとも賃貸借契約成立の日時だけは賃借権の特定には絶対に欠くことのできない要件である。だから、土地賃借権確認請求訴訟における確認判決の主文を記載するにあたつてこれを表示しなかつた場合にはその判決にやはり確認の対象である賃借権の表示に特定を欠く違法のものであるというべきである(原判決が原判決二〇枚目表七、八行に引用する最高裁昭和三二年一月三一日判決(民集一一巻一号一三三頁)がこれとは全く異る趣旨の判決であつて、本件になんらの意味をもたないことは該判決を一読すればあきらかであるから、該判決は上告人のこの結論の妨とはならない。)ところ、原判決はその主文第二項に「別紙目録記載の土地につき、控訴人が、被控訴人両名を賃貸人とし、堅固でない建物所有を目的とする賃借権を有することを確認する」と記載しているだけで、賃借権発生の原因である賃貸借契約成立の日時についてはなんら表示するところがないから、原判決はこの意味においても確認の対象の表示について特定を欠く違法のものであるというそしりをまぬかれない。
原判決には以上(一)、(二)の違法があるから、この点からしても原判決は当然破毀せられるべきである。(以下略)